私が高校を卒業し、就職した当時の不動産会社、証券会社、建築会社などはバブルのど真ん中にいた。

もちろん私の就職した不動産会社も例外ではなく、当時社内では『高い物件から先に売れる』と、言われていた程であった。

そんな中でも私は真面目に働いていたほうだと思う。

就職して何ヵ月か経った頃、私は高校の時にした親友との約束を果たそうと、久しぶりに彼に連絡を取った。

彼は以前と変わらず明るい声で、最近の出来事や学校でのことを話してくれた。

そして私に「随分疲れてるな?」。

そう言った。

(やはり彼には何も隠せないな…)

実際私は初めて社会に出て働くことと、大人同士の人間関係に疲れていた。

彼は続けて、「じゃあ約束通り行きますか?」。

私は彼の問いに対して二つ返事でOKして電話を切った。

待ち合わせは新宿駅東口。

私が着いて程なく、彼も改札から現れた。

高校時代よりも垢抜けた感じの彼と、職場帰りでスーツの私。

きっとお互いが大人になったと感じたはずだ。

私たちは思い出話しもそこそこに、ネオンが燦々と輝く歌舞伎町へと入って行った。

世間から見れば立派な大人…。

しかし風俗初体験…。

そんな私たちに対してもこの街は容赦ない。

私たちを挟んで道の両脇から聞こえる声に耳を澄ます。

「安いよ」「60分8,000円」「良い娘いるよ」。

飛び交う声の大半は風俗の呼び込みである。

しかし私たちはそれらの声に振り返ることなく、目的の場所へと向かって歩いた。

目的の場所とは【ピンサロ】である。

風俗初体験ということもあり、彼と相談した結果【ピンサロ】にしたのだ。

ようやく店の前に着いた時に彼が口を開いた。

「いよいよだな?」。

私はその言葉に反応して生唾を飲み込んだ。

目の前には地下に続く薄暗い階段があり、その先にポツンと一枚の扉がある。

私よりも先に扉に辿り着いた彼が、その大きな扉を押し開けた。

扉が開くのと同時に耳をつんざくような爆音が店の外にまで響き渡った。

呆然と立ち尽くす私たちに店のボーイが歩み寄り、爆音にも負けない声で「いらっしゃいませー」と、叫んだ。

受付に置いてある数十枚のポラロイド写真の中から女の子を選び、店内に鳴り響く音楽に合わせたボーイの手拍子に導かれるように店の中へと進んで行った。

私と彼は別々の席に座らされた。

席について数分、落ち着かない私の隣に一人の女性がやってきた。

年の頃は私と同じか、少し上。

彼女は明るい声で私に話し掛けてきた。

極度に緊張していた私は彼女の顔をろくに見ることも出来ずに彼女の話を聞いている。

すると彼女はテーブルの上のオシボリを手に取りながら「初めて?」と、聞いた。

私が頷くのと同時に彼女は私のズボンのベルトをはずし、私のものを取り出した。

恥ずかしながら、中学生の時に好きだった彼女にしか見せたことのない私のそれは、オシボリで包まれながら大きく膨張していった。

さっきまで耳障りだった音楽が今はすっかり聞こえない。

(プロ…)

私は妙に冷静になって数年前の自らの初体験を思い出していた。

しかし、私が干渉に浸るのも束の間、さすがはプロの技である…。

彼女は何ごともなかったかのように、新しいオシボリで私のそれを優しく何度も拭いてくれた後、別のおしぼりで自らの口を覆いながら私に微笑んだ。

それまでなされるがままだった私も、ようやく落ち着きを取り戻し店内を見回すと、私の三つ程前の席に彼の後頭部を発見した。

大音量の音楽と暗がりの中で、小刻みに動く彼の後頭部を見ながら私は思わず吹き出してしまった。

出口に向かうと丁度彼も出口の所に立っていた。

彼と目が合うと、どちらからともなくお互いが恥ずかしそうに照れ笑いした。

その瞬間、彼も私と同じ体験をしたのだと察した。

私たちは一緒に店を出て喫茶店に入り、お互いの出来事を話した。

お互いのバカ話に大笑いしたのを今でも覚えている。

私が後々、風俗にハマり、そして転落人生を歩んで行くことになろうとは、この時は知る由もなかった。

しかし今思えば、この風俗初体験の夜、彼に比べて私は明らかに高揚し、興奮していた…。