私はホテルのベッドの上で、独り感傷に浸っていた…。

私は中学生以来、久しぶりに人を愛していたのだ。

しかし、その彼女の職業は風俗嬢であった。

確かに私の今までの生活を振り返れば、風俗嬢と付き合うのは必然だったのかもしれない。

だが、当時の私は彼女の職業など気にならない程に、彼女を深く愛していた。

(バタン)

シャワー室の扉が開く音と同時に私は彼女の存在に気付いた。

彼女はバスタオルで身体を覆ったまま、私の隣に腰掛けた。

彼女は私の左肩に頬を押し当てながら、そっと一言呟いた。

「会ってほしい人がいるの」私はその言葉に妙に反応してしまった。

きっと彼女の両親に会うのだろう。

両親に会えば、彼女が頑なに風俗の仕事を辞めない理由が分かるかもしれない。

大きな期待が私の胸の中に溢れた。

と、同時に得体の知れない底知れぬ不安が沸き起こった。

(その時の私は特に気にも止めなかったのだが…)

それから数週間後、私は彼女に呼び出され五反田駅の改札口に立っていた。

私が到着してから数分、彼女は駅からではなく交差点を渡って向こう側から歩いて来た。

彼女は心無しか暗い表情を隠すように私に微笑みかけた。

私も彼女に微笑み返し、私たちは近くの喫茶店へと入った。

いつもと何も変わらない二人の会話なのだが、時折見せる彼女の暗い表情が私の胸を締め付けた。

私は堪らずに彼女に問いかける。

「何かあったのかい?」少しの間の後、彼女は堰を切ったように大粒の涙を流して泣き出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい」理由も言わずただ泣き続ける彼女を、私はやっとの思いでなだめ、そして優しく理由を聞いた。

彼女は自らの顔を両手で覆いながら、ゆっくりと話しだした。

彼女が結婚していたこと。

そして今は離婚していること。

風俗で働く理由。

その理由が前夫との間に出来た子供を養うためであること。

そして今は、その子供と二人で生活をしているということ。

彼女は一層苦しそうな声で「ごめんなさい。

隠すつもりはなかったの…」そう言った。

私は何がなんだか分からなくなり、大粒の涙を流す彼女を置き去りに「ごめん」と、一言呟きその場を立ち去った。

行く当てもなく彷徨う私は、またもや風俗店へと足を運んでいた。

部屋に通されても無感情な私に対して、対峙した女性はお決まりのサービスで私をもてなしてくれた。

ただ一言で風俗嬢と片付けてしまう人たちがいる。

しかし、その風俗嬢たちにも十人十色の人生と、背負っているものがある。

私の上にまたがる彼女を見上げながら、私はついさっき別れた彼女のことを考えていた。

今、私の上にいる女性に対して失礼なくらいに、私はココでのプレイに身が入っていなかった。

この女性が私の上で動けば動く程に、私の中で彼女の存在が大きくなっていった。

(子供がいるから何だ)

私は初めて自分の中での彼女の存在の大きさに気付いた。

私はプレイの途中にも関わらず、立ち上がり、呆然とする女性を尻目に店を飛び出した。

風俗に行き他の女性を抱くことで、本当に大切な存在に気付く。

そんなことが稀にあるのだ。

私はさっき来た道を急いで引き返し、彼女と会った喫茶店へと戻った。

さっきまで私たちが座っていた席に彼女の姿はなく、別のカップルが仲良さ気に座っていた。

さっきまでの私たちとはあまりにも対照的な光景に愕然とするのと同時に、私は一層彼女を愛しく思った。

その時その場に立ち尽くし、呆然とする私のポケットベルが鳴った。

咄嗟に彼女からだと思った私は、ポケットベルに目をやった。

すると私の期待とは裏腹にポケットベルは会社の番号を通知していた。

私は期待を裏切られガックリと肩を落としながらも、近くの公衆電話から会社に折り返しの電話をした。

心無しかいつもよりも長くコールした電話の向こうに慌てる同僚の声がした。

「何かあったのか?」私の問いの途中で同僚が叫ぶように言った。

「会社が、会社が潰れた。」

そう、その瞬間に巨大に膨れ上がったバブルは弾けたのだ。

あまりにも突然に。

私は再びただ呆然とその場に立ち尽くした。