(な、なぜココに!?)

あの新聞の切り抜きが、私の高校で始めて出来た友達の家の、しかも電話の受話器に貼ってあるのか。

私は自らの想定の範囲を超えた出来事に驚き、困惑した。

受話器を置いた中年の女性は、何ごともないように「お友達を連れて来たのは初めてね」。

そう一言だけ言って、一万円札を彼に手渡した。

彼は一言も発しないまま、私を引き連れ家を出た。

彼と私は無言のまま駅の方角へ歩いた。

今まで彼と一緒にいて、これ程重苦しい空気を感じたことがあっただろうか?

そんなことを考えながら歩いていると、ふと彼が「うちには親父がいないんだ」そう呟いた。

微かな声ではあったが、はっきりと私の耳には聞こえた。

彼は私のほうを見ずに、そのまま話を続けた。

彼が小学生の時に両親が離婚したこと、彼が母親に引き取られ育てられたこと。

そして、高校に入学してから知った母親の仕事…。

その話に差し掛かった時、私は押さえきれない感情を彼にぶつけてしまった。

(その時の私は彼の気持ちを考える余裕などなかった)

あの作家の家で出会ってしまった日から、忘れようとしても忘れられない背徳感。

そして何よりも、あの紙面が何を意味するのかという純粋な疑問。

それまで静かに話を聞いていた私は堰を切ったように話し出した。

私が彼に母親の仕事を尋ねると、彼は戸惑いながらも、少しふっきれたように「風俗」。

そう一言だけ言った。

ある程度、想像していた答えではあったが、その答えを聞いた私の胸までもが締め付けられる思いがした。

しばし、お互い無言の時間が流れ?彼が言った。

「俺のこと軽蔑するか?」何も答えられない私…。

そのころの私は、心無くいい加減なことを答えられるほど子供ではなく、彼の気持ちを察し、気の利いたことを言えるほど大人でもなかった。

再び流れる無言の時間を切り裂くように、私は彼の質問に答えることなく彼に質問した。

「あの新聞は何なの…?」私の長年抱いた疑問に彼は答えてくれた。

あの紙面は風俗店がお客さんを呼ぶための広告だということ。

そして、あの広告が【三行広告】という呼び名だということ。

この時、私の抱えていた疑問、拭いきれない背徳感が全て解消された気がした。

彼には申し訳ないのだが、勝手にスッキリしてしまった私は、彼の母親の仕事のことなどは、もはやどうでも良い事柄となってしまっていた。

自分にとってマイナスな事を話してくれた彼に対して、私は人生で初めて親友というものができた気がした。

(こいつになら何でも話せる)

初めてそう思えたのだ。

彼も、そんな私の気持ちを察したのか、さっきまでの重苦しい表情は解け、心なしか明るい表情となっていた。

そんな彼に対して私は、「高校を卒業したら風俗でも行くか?」そう、明るく語りかけた。

彼は涙をこらえて頷いた。

それから程なくして高校の卒業を迎えた私達は、互いの人生に向かって歩き出していた。

彼は大学への進学の道を選び、私はバブルで賑わう社会。

その中心にいる不動産会社へと就職し、新たな人生のスタートをきる事となった。

学生時代に経験した、数々の【出逢い】、【別れ】を胸に…。