作家の家で「魅惑の新聞」との衝撃的な出会いをしてから数日経ったある日の夕方私は、いつもは一人の帰宅路を彼女と二人で歩いていた。

衝撃的な一日から増々彼女のことを考える時間が増えた私は、作家の、「行動しなければ始まらない」その言葉を、何度も頭の中で反芻し、行動に移したのがその日の放課後だった。

夕焼けで赤く染まった校舎のグラウンドを真直ぐ横切ろうとしている彼女を呼び止め、破裂しそうな心臓の鼓動を必死で隠し「一緒に帰ろう」そう一言だけ言ったのだ。

小さく頷いた彼女のことが、今まで以上に愛しく思え、胸の高なりが一層大きくなったのを今でも鮮明に覚えている。

ところが当時の私といったら、せっかくものにしたチャンスにも関わらず、彼女の家までほとんど一言も会話することもなく、ただ歩いて帰るのが精一杯だった。

その日の夜は、何か悶々とした気持ちと、不甲斐無い自分への怒りからか、明け方まで自慰行為にふけっていた。

次の日の放課後、またいつものように一人で帰ろうとする私の背中を呼び止める声がした。

内心ドキドキしながら声のほうへ振り向いてみると小柄な彼女が赤ら顔で立っていた。

彼女は恥ずかしそうに私に歩み寄り、そして私達は会話を交わすこともなく自然と二人で歩きだしていた。

並んで歩く彼女の気配を感じながら「神様はいたのだ!」そう心の中で私は叫んでいた。

その日を期に彼女と二人で下校するようになった私の頭の中は、またもや作家の「行動しなければ始まらない」という言葉に支配されていた。

(手を、手を繋ぎたい…)

その思いは日に日に募り、当時の私の限界をこえた

ある日、おもむろに彼女の細く、小さな左手を強く握りしめていた。

勇気を振り絞り彼女の顔を覗き込むと、いつもの赤ら顔を一層上気させうつむいていた。

その愛らしい横顔を見た私の理性はいっぺんに吹き飛び、彼女の薄いピンク色の唇に自らの唇を強引に押し付けていた。

最初驚いて力の入った彼女の肩は緊張で強張っていたが、徐々に和らぎ、私に自らの身を委ねてきた。

私はそっと彼女の背中に手を回し、初めて女性の温かさを知った。

「女とは…、まず知ることだ」再び作家の言葉が頭を過った。

交際が始まり数週間が経った頃の日曜日の昼下がり、私と彼女は自宅から一駅で行ける上野動物園にいた。

初めて休日に、彼女に会うということもあり、前日から興奮して寝つけなかったせいで目を真っ赤にした私とは対照的に、彼女の顔は下校時に見せるそれと比べて何倍も艶っぽかった。

薄く口紅をひいた彼女は、私より何倍も大人に感じた。

あの時、あんなにドキドキしながら初めて繋いだ彼女の華奢な手が、今では一番身近なことを感じながら、猿の檻の近くにある備え付けのベンチに座り、ソフトクリームを食べていた。

ふいに私の右手を強く握り返す彼女に気付いた。

ふと彼女の横顔に視線を落とすと、彼女はそっと瞳を閉じ柔らかい頬を薄紅色に染める。

私は、もはや慣れた手付きで彼女の肩をそっと抱き、唇を重ねた。

彼女の唇の柔らかさを確かめるように丹念にくちづけをする自らの股間は、はち切れる程に膨張している。

そう、まさにこの股間の膨張こそが私の寝不足の原因なのだ。

何度目だろう…心の中で作家の言葉が蘇る…。

休日の彼女は、私の知らない大人の女性。

(子供だと思われてしまうんじゃないか)

焦った私は、「行こうか」彼女の手を取り動物園の弁天門ゲートに向かって立ち上がった。

動物園を出て数分、どちらからともなく歩く方向は、夕方だというのに人気は少なく、辺りにいるのは男女のカップルだけとなっていた。

私の心臓なのか、彼女の心臓なのか、それとも他の何かなのか?私たち二人の周りにだけ大きな鼓動の音が鳴り響いていた。

(ドックン、ドックン、ドックン)

若い二人はかつてない程に緊張していた。

そして私は、作家に言われた通り【湯島】へと足を運ばせていた。